社会保険労務士(社労士)による就業規則の作成業務とは?

社会保険労務士(社労士)による就業規則の作成業務とは?

社会保険労務士と就業規則
目次

就業規則の作成は、なぜ社会保険労務士が行うのか?

社会保険労務士事務所が請け負う業務のひとつに「就業規則」の新規作成、変更、またはそれらの労働基準監督署への届出があります。

就業規則の作成や変更を、社会保険労務士の独占業務であるとする考えが一般的ですが、一部には独占業務には属さないとする意見があります。

独占業務の問題はさておいて、就業規則の作成や変更は、主に社会保険労務士に対して依頼があります。

その理由は社会保険労務士が労働法令についての専門家であるからです。

社会保険労務士は、法令、ガイドライン、通達などを精読し、過去の労働裁判の判例や労使紛争の事例をもとに、合理的な就業規則となるよう、規定を一つひとつ精査して就業規則を作成します。

企業も社労士の専門性を頼って就業規則の作成や変更業務を依頼してくるのです。

就業規則とは

就業規則とは、会社や従業員が守るべきルールであり、会社側が定めるものです。言うなれば「会社のルールブック」です。

会社側は、労働関係法令に違反しない範囲で、自由に就業規則を作成することができます。

就業規則には、会社の秩序を守るために、労働者に守ってもらわなければならない規律が定められます。

それと同時に、会社における労働条件が画一的に規定されます。

会社が人に働いてもらうときは、労働時間や、賃金、従事する仕事の内容、休日などについてあらかじめ細かく約束しておかなければ スムーズに働いていただくことはできません。

民法は、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。(民法第623条)」と定めています。

しかしながら、会社が労働者一人ひとりと細かく契約を交わし、何十ページにも及ぶ労働条件通知書を取り交わすことは現実的ではありません。

そのため、各々の労働者に共通する労働条件については、就業規則において定められるのです。

労働契約法第7条において、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と定められているとおり、就業規則に定められた労働条件が、各々の労働者に共通して効力を有することとなるのです。

絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項

就業規則は、労働関係法令に違反しない範囲で会社側が自由に定めることができます。

しかし、会社の創業者が事業への思いをまとめた社訓のようなものを就業規則であると言われたら、働く側としては困ってしまいます。

そこで、労働基準法第89条において、就業規則に記載すべき事項が決められています。

それが、

  • 必ず記載しなくてはならない「絶対的必要記載事項」
  • 定めた場合には必ず記載すべき「相対的必要記載事項」

です。

相対的必要記載事項について、何ら定めをしないのであれば、絶対的必要記載事項のみを記載したものでも、労働基準法第89条が定める就業規則とります。

また、労働基準法第89条が何ら定めをしてない事項が就業規則に記載されることもあります。

それらは「任意的記載事項」と呼ばれます。

①絶対的必要記載事項とは

労働基準法第89条の第1号から第3号に規定される項目が絶対的必要記載事項です。

  • 何時から何時まで働けばよいのか
  • 何時から何時まで休憩していいのか
  • いつ休みなのか
  • 給料はいついくらもらえるのか
  • 辞めるときはどうすればいいのか
  • 労働関係はいつどのようにして終了するのか
  • どんな場合に解雇されることがあるのか

これらは、労働者が生活していくうえで、最低限知っていないと困るものです。

労働基準法第89条の第1号から第3号には、以下のとおり規定されています。

1.始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項労働基準法第89条の第1号から第3号に

2.賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

3.退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

②相対的必要記載事項とは

労働基準法第89条の第3号の2から第10号に規定される以下の項目が相対的必要記載事項です。

月々の賃金のほかに支給される賞与とか退職金について、何らかのルールを設けるならば、就業規則または別規則である賃金規程等に定めて、労働者に周知しなくてはなりません。

労働者の側にしてみれば、自分が賞与や退職金の支給を受けるべき対象なのかどうかは、働くうえで重要なことです。

労働基準法第89条の第3号の2から第10号には、以下のとおり規定されています。

3の2.退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

4.臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

5.労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

6.安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

7.職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

8.災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

9.表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

10.前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

「絶対的必要記載事項」にも「相対的必要記載事項」にも含まれないもので、就業規則に定められる事項を「任意的記載事項」と呼びます。

これには、例えば「服務規律」、「守秘義務」、「競業制限」などの職場秩序に関する事項、配置転換に関する事項、職制に関する事項などがあります。

就業規則の届出

労働基準法第89条に、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。」と定められています。

常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則を作成しなければならず、かつ所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

さらに、就業規則を定める前には、過半数加入労働組合または過半数労働者代表の意見聴取が必要で、施行に伴って労働者に周知がなされなければなりません。

次のような手順で手続きが行われます。

使用者側で終業規則案を作成

過半数加入労働組合または過半数労働者代表の意見聴取

就業規則の制定

所轄労働基準監督署長への届出

労働者への周知

では、上の手続きを一つでも欠く就業規則は民事上の効力を有しないかというと、そうではありません。

所轄労働基準監督署長への届出が行われていなくても、有効とされた判決があります。

また、過半数加入労働組合または過半数労働者代表に対しては、意見聴取が行われればよいのであって、同意は必要ではありません。

①届出義務がある事業所の要件

労働基準法第89条に「常時十人以上の労働者を使用する」と定められていますが、「常時10人以上」はいつどのようにカウントするのでしょうか。

「常態」として雇用する「労働者数」で判断します。

正社員だけでなく、アルバイト、パートタイマー、嘱託、有期契約社員などすべての労働者の人数をカウントします。

週1日だけのアルバイトの人も、毎日朝2時間だけ出勤するパートタイマーの方も1人としてカウントします。

なお、派遣労働者は派遣先ではなく、派遣元の人数にカウントします。

仮に繁忙期にだけ臨時で短期間雇用する人がいたとしても、その人は、「常態」として雇用される労働者ではなく、従ってカウントしません。

そのため繁忙期に勤務する臨時雇いの人を含めて10人を超えても、「常時十人以上の労働者を使用する」という状態に至ったことにはなりません。

反対に、一時的に欠員が生じて、労働者の数が10人未満になったとしても、「常態」として10人以上の労働者を使用するのであれば、「常時十人以上の労働者を使用する」状態に該当します。

では、10人に満たなくて作成義務も届出義務もないから就業規則は不要かというと、そうではありません。

就業規則は会社のルールブックですから、10人に満たないことを理由に、作成を先延ばしにすると、労使間のトラブルが起きたときに会社側も労働者側も困ります。

そのため、労働者を一人でも雇入れたら、会社側としては就業規則作成に取り掛かることが望ましいということは言うまでもありません。

②届出をする事業所の単位

労働基準法第89条の規定にある「常時十人以上」については、会社単位でカウントするのではありません。

工場や支店などの場合は、その工場尾や支店ごと、つまり「事業場」ごとにカウントします。

事業場は場所的観念によって判断されます。

経営上一体をなす工場、支店等を総合した全事業を指すのではありません。

仮に会社全体としては、常時10人以上の労働者を雇用しているが、本社・支店がそれぞれ独立性を有していて、本社・支店で常時働く労働者数は、それぞれ10人未満である場合は、就業規則を作成する義務はありません。

反対に、支店だけで10人以上の場合には、支店として就業規則を作成し届出る義務を負います。

独立性を有するというのは、本社・支店が、それぞれ独立して労働基準法の適用事業であることを意味します。

なぜ社会保険労務士が行うか

多くの企業は、就業規則の作成や変更を、社会保険労務士に依頼します。

なぜ社会保険労務士なのでしょう。厚生労働省は、就業規則は社会保険労務士の独占業務である旨の考えを示しています。

仮に独占業務であるとして、独占業務だから、社会保険労務士なのでしょうか。

社会保険労務士が、労働法令の専門家であるから、多くの企業は社会保険労務士の専門性を頼って、就業規則の作成や変更を依頼するのです。

①労働法令の専門家として

社会保険労務士は、労働法令に精通するだけでなく、省庁が発したガイドラインや通達にも細かく目を通します。

それらに加えて、過去の労働裁判において判示された労働法令の解釈、や判例を収集し業務に活用します。

また、顧問先や取引先で労使紛争が起きると、その事例に関する多くの情報を得ます。

このような知識や情報が、就業規則の作成には不可欠なのです。

労働関係諸法令が定める範囲を超えず合理的な内容を定める就業規則がしっかりと整備されていることで、会社側も労働者を安心して雇入れ、労働者側も安心して働くことができるのです。

従って、社会保険労務士には、労使が安心できる就業規則となるよう、規定を一つひとつ精査して就業規則を作成する知識が必要となるのです。

②独占業務と就業規則

かつて、就業規則は社会保険労務士の独占業務か否かが問われたことがありました。

社労士会は、「常時10人以上の労働者を使用する」場合と、「常時10人未満の労働者を使用する」場合とに分けて、それぞれ社会保険労務士法第2条第1項の「1号業務」「2号業務」に該当し、そのため独占業務であるとしています。

「常時10人以上の労働者を使用する」場合については、労働基準法第89条の規定により就業規則の作成・届出が義務付けられていることから、その作成は社会保険労務士法第2条第1項第1号に掲げる「1号業務」であるとしています。

一方、「常時10人未満の労働者を使用する」場合は、作成・届出義務は課されていないものの、労働基準法第91条、92条、93条の適用を受け、作成した就業規則は同法第106条の規定に基づき備付等による周知義務が課せられていることから、社会保険労務士法第2条第1項第2号の「帳簿書類」に該当し、「2号業務」であるとの見解を示しています。

この考え方は、行政解釈として確定しています。

しかし一部に、他士業の会から、これに対して異議が唱えられています。

就業規則の作成に必要となる知識

社会保険労務士が就業規則の作成を請け負う場合、最新の労働法令に関する知識が不可欠です。

働き方改革関連法は言うまでもありません。

中小企業においてすでに施行されている有給休暇の年5日の時季指定義務などは、ガイドラインやQ&A、通達などを精読して法の趣旨を正しく理解していなければ就業規則の規定を作成できません。

しかし、ただ法を理解していればいいわけではなく、年5日の時季指定義務を就業規則に反映させるためには、現場の事情を把握する必要があります。

規定がなくても、有給休暇が十分に取得されている事業場なのか、有給休暇がほとんど取得できていない事業場なのか。

それによって、どう規定すべきか、方向性が変わってきます。

また、働き方改革関連法の中で、中小企業未実施の法律に関する項目であっても、先々の実施を意識して就業規則の一つひとつの規定を考えていく必要があります。

ときには、現場の事情に照らし、どう規定することが最も有効なのか、会社側と打合せを重ねることもあります。

就業規則作成と報酬

就業規則の作成は、社会保険労務士が請け負う業務の中では、比較的報酬も高い部類に属します。

専門知識や業務経験など高度な専門性が求められるため、顧問料とは別に報酬を請求することが一般的です。

ときには顧問料の半年分や1年分という場合もあります。

作成にあたり、会社から取得すべき情報も多く、また、数次の打合せを行う必要もあり、時間も労力も費やされます。

まとめ

インターネット上には、無料で取得できる就業規則サンプルが溢れています。それをコピー&ペーストすれば誰でもすぐに簡単にできるとという声も聞かれます。このコラムをお読みいただいたみなさまには、それが誤った解釈であることがおわかりだと思います。

社労士試験に合格された方は、実用書を手に、就業規則を一度ご自身で作成してみることをおすすめします。