社労士実務に学ぶ「普通解雇」事例。能力不足や協調性欠如の判例解釈

「普通解雇」は、懲戒解雇や整理解雇以外の解雇の総称であり、比較的幅広いケースが想定されます。

しかしながら、就業規則に定めがあればどんな普通解雇も認められるというわけではなく、必ず事例ごとにその妥当性が認められなければなりません。

普通解雇は社労士試験で深く問われるテーマではありませんが、実務上、事業主から相談を受けることの多い話題です。

ここでは一足お先に、社労士実務でおさえるべき普通解雇を理解しましょう。

目次

社労士実務で扱う「普通解雇」の該当事例

解雇事由は、就業規則に必ず定めなければならない項目です。

そのため、労働者のどのような行為が解雇事由に該当するかは就業規則を確認すれば分かるようになっていますが、冒頭でも触れたとおり、会社が自由に決められるものではありません。

解雇理由の合理性や解雇の社会的相当性、使用者の対応等が総合的に考慮され、正当な解雇であるか否かが判断されます。

また、いずれの場合にも「就業規則の記載」に加えて、原則として解雇予告が必要です。

ここでは、実際に普通解雇に該当すると判断されたケースとして、主な事例を3つご紹介することにしましょう。

普通解雇該当事例①「傷病による勤務不能」

具体的には、従業員のケガや病気によって、当初に締結した雇用契約通りの労務提供ができなくなるケースが該当します。

就業規則では「精神又は身体の障害によって業務に耐えられないとき」として解雇事由に挙げられているでしょう。

ただし、ケガや病気で働けなくなれば直ちに解雇が可能となるのかと言えばそうではなく、事業主は休職や業務内容の見直し等の措置を講じた上で判断する必要があります。

また、業務上の傷病の場合には解雇制限の対象となり、普通解雇の取扱いができない可能性が高いため注意が必要です。

普通解雇該当事例②「能力不足」

従業員が重大な業務上のミスを繰り返す等、「能力不足」を理由に解雇するケースもあります。

確かに、雇入れ時に見込んだ能力が仕事に一向に反映されない、さらに改善の兆しもなさそうということであれば、会社は解雇もやむを得ないと判断したくなるでしょう。

実際、「能力不足」は会社が実施する解雇の事由として比較的多いようですが、その基準や解雇の妥当性が曖昧であるために労使トラブルに発展しやすいという特徴があるので注意が必要です。

能力不足による解雇を決断する際には、解雇の妥当性の他、労働者に対して十分な指導・教育を行ったか、配置転換等の措置を講じることはできなかったか等、会社としての対応を十分に考慮しなければなりません。

さらに、能力不足と判断した根拠、会社として十分に対応した証拠を記録として残しておくことも、リスク管理上重要となります。

普通解雇該当事例③「協調性の欠如」

社内で他の労働者のモチベーションを低下させるような言動をたびたびする、取引先と頻繁にトラブルを起こす等、従業員の問題行為が継続的に行われる場合、「協調性の欠如」として解雇事由に該当することがあります。

協調性の欠如は、他の従業員や会社業務への影響等から客観的に判断されますが、この場合にも、問題行為の程度や解雇の妥当性、会社の対応の有無によって不正解雇に該当しないかどうかを慎重に検討しなければなりません。

会社の対応の有無については、「能力不足」による解雇同様、必ず記録等の証拠を残しておきます。

会社として十分な教育・指導を施し、改善を促したことを証明できれば、万が一労使トラブルに発展した際に、解雇の妥当性が認められやすくなります。

普通解雇事由は就業規則の絶対的必要記載事項

解雇に関わる事項は、就業規則に必ず記載すべき内容に指定されています。

そのため、解雇を有効とするためには、懲戒解雇、整理解雇、普通解雇の別を問わず、具体的な解雇事由を就業規則に挙げておく必要があります。

実務上参考にしたい、普通解雇関連の判例

さて、ここまでは普通解雇に該当する主な事例をざっくりご紹介しました。

普通解雇の典型といえば「傷病による勤務不能」「能力不足」「協調性の欠如」ですが、もちろん、実際に解雇が有効として認められるかどうかは、問題の程度や会社の対応等の要素を個別に検討しなければなりません。

解雇の妥当性を検討する基準として参考にするべきは、類似のケースにおける「判例」です。

ここでは、「能力不足」「協調性の欠如」を理由に普通解雇が認められた事例をご紹介します。

「能力不足」を理由とした普通解雇が認められた例

判例(東京高裁平成27年4月16日判決)は、業務過誤及び事務遅滞を長年継続して引き起こしてきた労働者に対し、必要な指導を再三に渡り行ったにも関わらず改善されなかったとして解雇した事例です。

解雇の妥当性を判断する上で重要になるのは、以下の要素です。

  • 会社として必要な指導や配置転換、部署異動、業務内容の変更を行い、労働者の雇用継続のための努力を講じていたこと
  • 改善の見込みが極めて低いこと
  • 労働者のサポートのために上司や同僚が対応にあたることとなり、小規模事業所の業務に相当の支障をきたしていたこと

「協調性の欠如」を理由とした普通解雇が認められた例

判例(東京地方裁判所平成26年12月9日判決)は、他の従業員に対する高圧的、攻撃的な態度でたびたびトラブルを発生させた労働者の解雇が認められた事例です。

本件では、以下のポイントが解雇に妥当性ありと判断される要因になっています。

  • 会社は、問題の言動についてはその場で注意指導をしていた
  • 注意指導の他、面接による指導も複数回行っていた
  • 指導によっても改善されない場合、解雇の前にまず戒告や譴責などの懲戒処分を行っていた
  • 戒告や譴責の処分を行ってもなお状況が改善されないということで、最終手段として解雇に踏み切った

解雇権の濫用と判断されないためには「会社としての対応」が重要

前述の2つの判例に共通するのは、裁判実務で「会社として十分に対応した末の解雇処分であること」が重視される傾向にあるということです。

労働者に対し、会社は改善のための注意・指導・処分をどの程度行ったか、改善の機会をどの程度与えたかが、証拠書類から客観的に判断されます。

ここで重要となるのが、「一定の期間にわたり、相当数の注意・指導を行っていること」、さらに「いきなり解雇を告げるのではなく、戒告・譴責等の軽度の処分を行って改善を試みること」等の要素です。

このページでは、解雇が正当であると認められた事例のみを挙げましたが、裁判では不当解雇として莫大な支払いを命じられた事例も多々あるため注意が必要です。

参考:退職勧奨とは|解雇との違い/5つの注意点|ストレスチェックのストレスチェッカー

まとめ

  • 普通解雇は、社労士試験の頻出項目ではありませんが、社労士の実務上理解しておくべき重要テーマのひとつです
  • 普通解雇該当事由にはある程度典型があり、「傷病による勤務不能」「能力不足」「協調性の欠如」等があげられます
  • 普通解雇として正当に認められるかどうかは、個別の事例について、問題の程度や会社としての対応等を総合的に考慮し、解雇の妥当性が客観的に判断されます
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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