社労士試験「安全衛生管理体制」!全体像と選任義務を整理して理解しよう

更新日:2021年5月20日

労働安全衛生法は、社労士試験において「労働基準法とセットで出題されるため、出題数が少ない」「一般的になじみの薄いテーマであり、受験生が苦手意識を抱きがち」といった特徴があります。

しかしながら一方では、出題されるポイントが絞られているため、合格を狙う上では確実に得点につなげたい科目に位置づけられます。このページでは、労働安全衛生法のうち、社労士試験頻出の「安全衛生管理体制」について解説します。

覚えるべきポイントは、選任人数、専属・専任の別、選任期日、届出、資格要件、巡視義務です。

目次

社労士試験頻出!「安全衛生管理体制」の全体像

安全衛生管理体制の全体像

事業主は、労働災害防止や安全衛生の確保のために、事業場における安全衛生管理システムを整えなければなりません。

労働安全衛生法では、事業場を一つの適用単位として、各事業場の業種や規模等に応じて、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者及び産業医の選任と安全衛生委員会の設置を義務付けています。

また、小規模事業場では、安全衛生推進者、衛生推進者の選任が必要です。

下図は、業種別、従業員規模別の安全衛生管理体制を示したものです。

安全衛生管理体制の図

出典:京都労働局・労働基準監督署「事業場における安全衛生管理体制のあらまし」

安全衛生管理上、事業場に配置すべき各種管理者

事業場に配置すべき各種管理者

安全衛生管理体制として事業場ごとに選任すべき各種管理者は、社労士試験で頻繁に問われるテーマです。

まずは前項で示した図から、業種別・従業員規模別で必要な安全衛生管理体制を理解し、その上で各管理者の名称と役割を正しく把握しましょう。

以下は、社労士試験対策上、確実に覚えておくべき7の管理者の解説です。

総括安全衛生管理者

労働安全衛生法上、一定の規模以上の事業場については、事業を実質的に統括管理する者を「総括安全衛生管理者」として選任する必要があります。

総括安全衛生管理者を配置すべき事業場の規模は、具体的に以下の通りです。

100人以上 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業
300人以上 製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
1000人以上 その他の業種

総括安全衛生管理者の仕事は、「安全管理者・衛生管理者等の指揮」、「労働者の危険または健康障害を防止するための措置等の統括管理」です。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告することになっています。

安全管理者

安全管理者は、法定業種(主に屋内外工業。)で50人以上規模の事業場において、専属の者を選任する必要があります。

加えて、以下に該当する業種・従業員規模の事業場では少なくとも1人、専任の安全管理者を選任しなければなりません。

300人以上 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業
500人以上 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業
1,000人以上 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業
2000人以上 上記以外の業種で過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える場合

安全管理者は、以下のいずれかの資格要件を満たす者から選任します。

  • 学歴に応じた所定年数以上の産業安全実務経験を有し、かつ安全管理者選任時研修を修了したもの
  • 労働安全コンサルタント
  • 平成 18 年 10 月 1 日時点において安全管理者としての経験が2年以上ある者(経過措置)

安全管理者の業務は、安全衛生業務のうち、「安全に係る技術的事項の管理」です。選任事由が発生した日から 14 日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告します。

法定の巡視頻度は設けられていませんが、衛生管理者と同様に週1回以上の職場巡視が推奨されています。

衛生管理者

衛生管理者は、以下の通り、事業場規模ごとに選任すべき人数が異なります。

50人~ 200人 1人
201人~ 500人 2人
501人~1,000人 3人
1,001人~2,000人 4人(業種に関わらず1名以上の専任義務あり)
2,001人~3,000人 5人
3,001人以上 6人

上記のうち、「常時501人以上を使用し、坑内業務等に常時300人以上従事させる事業場」「常時1,001人以上を使用する事業場(業種を問わず)」では1名以上の専任義務(専ら衛生管理を行わせる)があります。

衛生管理者は、業種ごとに所定の免許等を保有していなければなりません。

業種ごとの免許

出典:京都労働局・労働基準監督署「事業場における安全衛生管理体制のあらまし」

衛生管理者は、安全衛生業務のうち「衛生に係る技術的事項」の管理に従事します。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告しなければなりません。

労働安全衛生法上、1週間に1回以上の巡視義務が課せられています。

産業医

一定規模以上の事業場について、要件を満たす医師のうちから「産業医」を選任します。

・常時3,000人を超える労働者を使用する事業場では、2人以上選任

・次に該当する事業場では専属の産業医選任義務あり
 ⇒ 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
 ⇒ 一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場

もちろん、医師であれば誰でも産業医になれるわけではなく、日本医師会の産業医学基礎研修を修了した者等、所定の要件を満たす必要があります。産業医は選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ報告します。

労働安全衛生法上、月1回以上(要件を満たす場合2ヵ月に1回以上)の巡視義務があります。

安全衛生推進者、衛生推進者

安全衛生推進者、衛生推進者は、小規模事業場の安全衛生管理業務を担います。具体的には、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置等の業務に携わります。

安全衛生推進者や衛生推進者は従業員数10~49人の事業場で選任義務があり、安全衛生推進者と衛生推進者のどちらを選任すべきかは業種によって異なります。

選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により労働者に周知します。労働基準監督署長への報告は不要です。

作業主任者

労働安全衛生法上、特定の危険有害作業に従事させる事業場においては、作業主任者を選任し、労働者に対して作業遂行過程における労働災害防止のための直接指導をさせる必要があります。

作業主任者は、作業内容に応じて保有すべき免許や修了すべき講習が決まっており、要件を満たす者の中から選任しなければなりません。作業主任者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により労働者に周知します。

労働基準監督署長への報告は不要です。

事業場における委員会設置のルール

事業場における委員会設置のルール

労働安全衛生法では、以下の基準に該当する事業場に対して、安全委員会、衛生委員会(又は両委員会を統合した安全衛生委員会)を月に1回以上開催すべき旨の義務を課しています。

構成員は、議長の他、事業場で選任された各管理者、産業医、当該事業場の労働者で経験を有する者等です。

委員会設置のルール

出典:京都労働局・労働基準監督署「事業場における安全衛生管理体制のあらまし」

まとめ

  • 労働安全衛生法は社労士試験における出題数は多くないものの、出題傾向に則した取り組みで得点を伸ばしやすい分野であるため、合格を狙う上では苦手意識を持たずに対策を進めるのが得策です
  • 労働安全衛生法の中でも、「安全衛生管理体制」は社労士試験の頻出テーマです
  • 事業場の安全管理体制として選任すべき管理者については、まずは全体像を確認した上で、各管理者の選任人数、専属・専任の別、選任期日、届出、資格要件、巡視義務について正確におさえましょう。
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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